日時:2011年12月17日(土)14時~17時
場所:学習院女子大学2号館3階237教室
須賀千絵(慶應義塾大学)
2011年12月17日に学習院女子大学において,ビジネス支援図書館推進協議会と「利用者ニーズに適合した公共図書館サービスモデルの構築」研究チーム(日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(B))の共催により,上記のシンポジウムが開催された。ビジネス支援サービスに関する3本の報告が行われ,それぞれについてコメンテーターが意見を述べた。その後,会場の参加者約30名を交えてのフリーディスカッションとなった。
第一の報告は,池谷のぞみ氏(慶應義塾大学)による「ビジネス支援サービスの設計と運営の実際」であった。池谷氏は,ビジネス支援サービスには,専門資料の収集とコーナーの設置を中心とする「伝統志向アプローチ」,レファレンスサービスを中心とする「レファレンスサービス拡張型アプローチ」,外部の専門家や機関の助力を得て新しいサービスメニューを作る「専門サービス志向型アプローチ」という3つのアプローチがあること,サービスに対し利用者や専門家が共通して認識する価値として,公共図書館の敷居の低さがあることなどを指摘した。この報告に対し,竹内比呂也氏(千葉大学)が,サービスの実践を通じ,従来の機能の再発見という価値のほかに,ステークホルダー間での相互作用を通し新たな価値が出現するのではないかというコメントを行った。
続いて,山崎博樹氏(秋田県立図書館)が「ビジネスライブラリアン講習会受講生の意識」について報告した。これは,過去の受講生を対象とするアンケート調査の結果をまとめたものである。講習会の内容がその後の自分の仕事や実際のサービスに役に立ったという回答が過半数を占め,特にマーケティングや広報力など,これまで図書館関係の研修ではあまり取り上げられなかった内容への評価が高かったことが報告された。一方,実際にサービスに役立った内容を分析すると,コーナーづくりなどの具体的事例や資料収集などを挙げる者が多く,「ビジネス支援=コーナー」という意識が根強いという指摘もあった。この報告に対し,小林隆志氏(鳥取県立図書館)が,講習会の始まった経緯やその後の経過について解説し,また自身の経験も踏まえて講習が広がった要因についてコメントした。
最後に,田村俊作氏(慶應義塾大学)が「ビジネス支援サービスの実施状況」について報告した。この報告は,国内の公立図書館を対象に平成18,20,23年に実施したアンケート調査の結果に基づく内容であった。報告によれば,全体として,実施館数は伸びているものの,新規に実施する館はやや減る傾向にあり,また県立などの大規模館に比べて町村立の実施率は低かった。実施内容としてはコーナーの設置が最も多く,それに比べて,相談サービスの実施館は少なかった。またビジネス支援サービスに対する評価としては,「サービスの充実」「業務意欲の向上」「住民のイメージ向上」などを,サービスの課題としては,「職員の研修体制」「予算の不足」「人的な負担」などを挙げる回答が多かった。そしてビジネス支援図書館推進協議会に対しては,研修の実施やツールの開発などを望む声が高かったことが報告された。この報告に対し,竹内利明氏(電気通信大学,ビジネス支援図書館推進協議会会長)は,ビジネス支援サービスの発展の経緯を「注目期」「実験期」「発展期」「停滞期」「新たな発展期」に分けたうえで,今後の方向性についての意見を述べた。その後のフリーディスカッションでは,図書館員,研究者,利用者など,さまざまな立場からの発言があり,活発な意見交換が行われた。全体を通して,ビジネス支援サービスが先進的サービスであった時期は終わり,サービスメニューの拡大と全国の「普通」の図書館への普及を進める時期にさしかかっていることが確認できたように思う。